医療の質マネジメントシステム(1)

 最近数多くの医療事故が起こっていますが、その多くは注射や点滴の液の取り違えや輸血のミスが多く、ちょっとした注意で回避できるものがほとんどである。
これらの事故は、高度の医療での技術的なミスは少なく、その多くは初歩的なもので、患者の取り違えやうっかりミスから始まり深刻な事故になったものが多い。

 また、朝夕の特定時間帯に多いとか、引継ぎの不備によるもの、ミスの報告を怠るもの、内部コミュニケーションの不足によるもの等が多く、ISOの基本に立って考えれば簡単に防ぐことが可能であり、 医療機関にISO取得の動きが出てきたことは当然のことと考えます。
 医療機関には独自の第三者認証機関 (財)日本医療機能評価機構が病院の認定を行っており、先ず、この認定を受けその後にISOを受審するようです。(添付資料参照)  また、ISOに関してこの辺の説明をするに当たり、日本規格協会発行の「医療の質マネジメントシステム」をもとに進めたいと思います

 IS9001:2000を医療分野に適用するに当たっての解釈の難しい点はどこにあったかと言うと、この品質マネジメントシステムを適用するわけですから、誰に、何を提供するか、即ち”顧客”と”製品”を定義することであった。 ”顧客”は患者及びその代理人とし、”製品”は医療機関が提供する製品として、症状、機能、病態の改善を目的として患者の心身に加えられる医学的な知見に基づいた介入のアウトプット (あらかじめ診療目標として表現され様々な医療プロセスの集合的な結果として実現されるもの: 意図されて状態変化などの医学的側面) 及びその過程で提供される付帯サービス (分かりやすい説明、迅速な対応、プライバシーの尊重などの非医学的側面) の総体である。

 医療の品質マネジメントシステムはISO9001:2000で医療の品質を向上させるものを目指しております。 医療の品質とは何かを考えるとき、前述のように、顧客とは誰か、製品とは何かと言うことを決める必要があります。 また、品質を向上させるためには、現在の業務のやり方を少しずつ改善していく、改善のためのベースになる標準化についても進める必要があります。  現在の医療はチームで行われており、病院と言う様々な職種の人で構成され、実施され、もはや個人の知識や技能に頼っていては質の高い医療は提供できない状況にあります。  組織活動をまとめ、組織的に改善を進めるための仕組みが求められております。


[顧客要求と品質]

 品質がよいと言うのは、「顧客の要求事項を満たすことである」と言う考え方が品質マネジメントの分野では広く受け入れられています。 顧客の要求を満たすことができるのがよい製品です。 つまり、顧客の要求が基準と言うことです。定められた規格に適合しているとか、不良品でないとか言うことは、品質のよいことの必須条件ですが、それだけでは十文ではありません。 あくまでも最終的には顧客要求を満たさなければならないのです。
 医療における顧客、即ち、"患者及びその代理人"の要求について考えてみると、これは何かを明確にすることは、医療においては特に難しい。顧客が要求の全てを決めてくれれば話は簡単ですが、それができないところに難しさがあります。  顧客を患者本人とすると、当然気を治してもらうことが要求ですが、不治の病であれば、なるべく痛みを緩和せざるを得ない場合もあります。 できるだけ最良の治療方法を選択することになります。 この選択は、患者本人だけでは決まらない場合が多く、最良の状態と言うのを、患者の家族が判断する場合もあります。
 通常の製品の場合、現在の最高の技術でどの程度のことができるのかが、顧客も容易に知りうる状況にありますが、医療の場合そのあたりが不透明です。 もちろんわざと隠しているのではなく、インフォームドコンセント (患者への診療行為にたいする説明と同意) なども行われ、確実に伝える努力は行われているが、全てを理解するとは難しい。
 結局、顧客の要求とは、家族などを含めた患者関係者と言う顧客と、医師、看護師等の医療関係者との協議で定めるもので現在の医療技術で最良の方向に向かうことと解釈しておくのが良いと思われます。


[改善のための重要な考え方]

1.プロセス指向への転換
 プロセス指向とは「良いプロセスが良い結果を生む」と言う考え方を理解し、問題をただしていくために仕事のやり方、仕組みを変えていくことを主に実践する改善の進め方です。 もちろん人の問題、つまり注意力であるとか、体調、性格、資質、能力などの問題もあります。 製造業でも、突き詰めていくと最後には人の問題に突き当たり、人の問題にも取り組まなければならなくなります。
 もしプロセスを良くすることによって結果を良くすることできるのなら、それがもっとも容易でマネジメントし易い方法です。  従って、まずプロセスの問題に取り組むことをお勧めします。
 工業製品の場合は、不良品を作ってからでも検査で選別することが可能ですが、医療の場合は、不良品を作ってからでは遅すぎます。  プロセスをしっかりしたものにし、プロセスで不良、すなわち事故を押さえ込むことが特に重要です。

2.マネジメント
 マネジメントまたは管理するとはどんなことか、品質マネジメントシステムでのマネジメントはPDCAのサイクルを廻すことです。  すなわち、業務を実行するに当たって計画(Plan)し、実施(Do)し、それがうまくいっているかをチェック(Check)し、うまくいっていなければ処置(Act)を取ることです。
 これが改善のための基本的な考え方です。
 PDCAにおけるC (Check)、すなわち仕事がうまくいっているかどうかをどのように評価するかが最も重要となります。 ここでの評価が適切でなければ、改善は始まらないからです。 その意味から、どのような指標によってチェックを行うかをよく検討しておく必要があります。
この指標を管理項目として仕事の良し悪しを判断する評価基準とします。

3.重点指向
 重点指向とは重要な問題に絞り、集中して取り組みなさいとのことです。 例えば、事故報告書制度を整備して改善を進めようとする際に、数ある問題の中から、特に重要な2.3問題に絞って、あとは捨てよ、ということです。 この捨てると言うのが難しく、「見えている問題に何も手をつけず、重要な問題に絞れ」と口では簡単にいえますが、ついいろいろな問題に手をつけてしまうのが人情です。  結局、どの問題も中途半端な取組みに終り、効果が得られないことになります。
 重要な問題に絞り、その他の問題は捨てて取り組むのが結局は最も効果的であるということが、多くの例から経験されております。
 重点を絞ると言うことは、ある課題に対して、人と時間とを集中的にかけると言うことで、課題を少なくするだけではなく、実際に担当者が集中的に作業ができるようにすることです。

4.事実に基づく管理
 事実に基づく管理とは、経験や勘に頼るのではなく、科学的に事実を分析して問題解決を図ろうとする考え方です。
 問題の解決策は、事実の分析を行わなくても考えることはできる。 例えば、不注意の事故に対し管理者が「不注意だったんだろう、注意してやれ」と言ったことは良いものではないが、「注意してやる」と言うのは、管理者の経験や、勘に基づいた対策であります。  経験や勘に基づくのは、その道の達人であれば悪いことではなく、むしろ適切なことが多い。
 しかし、種々の新しい問題に対しては常に達人であることは難しく、おそらく医療事故をはじめ、医療ケアの品質の不具合に関して達人と呼ばれる人はまだいないと思われます。  正しい効果的な対策を導くためには、問題に関する事実関係をよく調査し、それをもとに対策を考案、実施していかなければならない。


[標準化と改善]

1.標準化とその意義
 標準化をする対象は、物、作業、仕組み、技術、測定など様々なものがあります。 標準とは、統一、単純化を図って関係者に便宜が図れるように、これらの対象に対して取り決めを定めるものです。 この中で、要求品質をできるだけ効率的に実現するための作業、及びその手順を文書化したものが作業標準書というもので、ここでは数ある標準の中からこの作業標準書について解説します。
 図1[PDF形式[はインシデントレポートの例(注射事故報告書)で、 図2[PDF形式]はこのインシデントレポートを用いている病院の投薬手順をプロセス図として表現したものです。 このレポートの特徴は、投薬業務プロセスの業務手順に番号を付け、どの業務手順において何をどのように間違ったかを記録できる点です。 プロセス図は投薬に関する一般的な手順を示したもので、製造業で言う手順書又は作業標準書に相当するものです。
 このように、プロセス図に手順を表すことの目的の一つは、問題を解決していくために仕事のやり方を変えていくと言うプロセス指向を導入し、プロセス管理を促進することにあります。  これまでの医療業務においては、個人の注意力が重視される傾向が強く、良いプロセスを構築すると言う考えが弱かった一般的な手順が記述できるのであれば、それを明確に記述し、それに従って業務を実行し、不備があれば改善していくのが良い。 これがプロセス管理の基本的な考えです。医療業務においても、そのようなプロセスが数多く存在する。投薬はもちろん、検査や会計の業務にも適用できる。医師の診断や手術も多くの場合は適用可能と考える。
 プロセス図のもう一つの目的は、標準化です。標準化の目的は
@ 不適合及び作業ミスの防止
A 決めることによる作業能率の向上
B 改善の容易化・促進
C 必要な作業内容の伝達
です。

  図1 インシデントレポート(例)日本規格協会医療の質マネージメントシステムより
  図2 投薬業務プロセス図(例)日本規格協会医療の質マネージメントシステムより

 最初から完全な手順を作ることは難しく、現在考えられる最良の方法を定めておき、それを改善していくことが実際的です。
 現在行われている手順を改善するには、起こってしまった不適合やミスとその結果を生み出した手順等の関係を調べることが改善の第一歩です。
 プロセス図のような標準は、標準的な作業を可視化しており、これによって他人に対して伝達可能となり、作業内容を徹底するための伝達手段ともなり、新人教育のためのテキストとしても活用できる。
 実際病院において、例えば投薬の手順はほとんど文書化されていないか、されていてもそれが改善され改定され、新人用テキストにすると言った使われ方はされていない。  紙に書いていなくても、決められた手順はあり、それに従って実施しているので標準化は行われているとの認識があるかもしれない。  しかし、文字や図で手順を可視化し、それを維持し改定していかなければ、標準化の効用はもたらされないと言うことを十分認識する必要があります。
 品質向上のためには改善が必要ですが、ただ漠然と改善、改善と言うだけではなく、改善の対象は何か、何を改善するのかを一生懸命に考えた改善策は何に反映するのか、それが標準であることを認識し、これを一過性のものとせず、維持し、継続していくことが大切です。

2.標準によるマネジメント(改善)の基本
 製造業においては、何らかの不具合が生じた場合に、必ず標準と言う視点からの分析を行う。 表1. に作業ミスの場合の分析の観点を示す。
表1. 作業ミスの発生状況とその対応策
作業ミスの発生状況 対  策
@標準作業が確立していない 作業標準の作成
標準作業が確立 A標準どおり作業することは困難 特定の作業ができない 適正な職場配置
作業者登録制度
訓練の実施
誰もできない 作業性の面から作業標準の改訂
標準作業どおり作業することが可能 B標準どおり作業した 生産技術面から作業標準の改訂
標準どおり作業しなかった C標準作業の方法を知らなかった 教育の実施
標準作業の方法を知っていた D不要と判断した 動機付け
Eやりそこなった エラープルーフ化
日本規格協会「医療の質マネジメントシステム」より

 @の場合には、どのように作業すべきかが決まっていないので、その作業方法のどこが良いとか悪いとかを
   議論することは不可能であり、早急に作業標準等を作成すべきです。
 Aは、ある特定の作業者ができないと言う場合と、誰もできないと言う場合の二つある。前者の場合には、
   教育・訓練の実施、作業者登録制度の採用、適正な職場配置の実現などの対応が必要です。また後者の
   場合は、生産ラインのスピード等も含めて、作業性の面から作業標準を再検討すべきです。
 Bは、技術の問題で、はんだ付け作業や溶接作業などに関して作業ミスと呼ばれている中には、このような
   ものが含まれている場合もある。この場合には生産技術的な検討を十分に行った上で、作業標準の改訂
   を行わなければなりません。
 Cは教育の問題で、
 Dは動機付けの問題です。作業者がいくら間違ってやろうと思ってもできないように、性悪説的な視点から
   エラープルーフ(人間のミスを防ぐための様々な工夫)を行うと言うのは経済的ではない。なぜ知らなかった
   のか、なぜ必要ないと思ったのかと言う点について詳細に解析を行い、標準作業を周知徹底させる方法に
   ついて検討すべきです。
 E @については、教育・訓練や職場の配置転換などをいくら行っても無駄です、このようなミスに対しては、
   作業者の注意を低下させないように休息の取り方を工夫したり環境を整備することも重要な要素の一つ
   ではあるものの、疲労するのを避けることが不可能である以上は十分な効果は期待できない。従って、E
   の問題については、誰がどのような体調や精神状態で行っても大丈夫なように、作業方法を変更して作業
   のエラープルーフ化を図る必要があります。
 このように、ある作業ミスが起きた場合に、それに関わる作業標準の問題を追及する観点は様々なものがあります。 PDCAサイクルにおいて、標準はPにあたります、不完全であっても計画を文書化し、それに基づいて実行し(D)、チェック(C)する、そして問題があれば、前述の様々な観点から分析し、標準の改訂、教育による徹底を行って再発防止を図る(A)、これが標準によるマネジメント(改善)の基本です。


[QMS- (Quality Management System)]

 これまでに述べてきた基本的な概念を理解することにより,マネジメント・改善を進めることが可能になります。 しかし,個人個人が勝手にP-D-C-Aを回していたのでは、それぞれ独自の処置や対策が生まれ,かえって混乱を招くことになります。 組織的な活動を行っている場合には、それを統括的に管理する仕組みが必要になります。 それがQMSです。
 統括的に管理する仕組みとは,どのようなものかと言うと,例えば標準について見ると,標準があれば,それが改善の対象となり,改善の促進と,対策の維持継続につながると述べましたが,その標準は,組織の人々に共通のもので,全ての人が守らなければならない。 個人用の作業標準書を個人が勝手に作ったのでは他の人とのコミュニケーションが取れないので意味がありません。 組織が正式なものとして認める標準を作成しそれを周知徹底するような,標準を管理するための仕組みが必要であります。 このような標準を統括する仕組みは,QMSの一要素であります。
 システムに関してはいろいろな定義があるでしょうが,仕組み,業務のやり方と考えておきます。 具体的には,品質マニュアル,手順書,記録などの文書類,とそれらに基づいて業務を行う人,設備などの経営資源(組織の構成要素)から構成される。 QMSは,主に品質の達成,品質の向上に関わる仕組み及び業務のやり方であります。
 QMSの目的は,組織の立てた品質に関する目標を達成することであり,品質に関する目標とは,例えばインシデントを減らすこと,顧客満足を上げること,待ち時間を短くすることなど様々なものが考えられる。 これらの達成のためにQMSを用いて次のような活動を行う。

 @顧客のニーズを明確にする。
 A組織の品質方針及び品質目標を設定する。
 B品質目標の達成に必要なプロセスと責任とを明確にする。
 C品質目標の達成に必要な資源(人,物,金,設備など)を明確にし,提供する。
 D各プロセスの有効性と効率とを評価するための指標及び方法を決め評価する。
 E不適合,不具合及び問題を予防し,その原因を除去するための対策を実施する。
 FQMSの継続的改善を実施する。

 これらの活動は,次のことを意味する,すなわち,我々は,品質に関する目標を達成することを目指すわけで,そのために顧客,すなわち患者,及びその代理人が何を望んでいるかを明らかにしなければならない。 なぜなら,品質が良いと言うのは顧客要求の合致していることを言うからです。 例えば,安全な治療を受けたいと言うのが望みであるとすれば,,これを達成するために,具体的な品質方針と品質目標を立てる。 例えば品質方針は“事故のない安全な治療を提供する”品質目標は“事故を昨年度から半減する”などとなる。 これを実現するための重要な業務の一つとして投薬業務を考えよう。 この業務がいい加減に行われては達成できないので,責任者は誰か,誰がどのような方法で実施するのかを決めて実行する。 そして,その業務がうまくいかないと目標は達成できないので,うまくいっているかどうかを見るための評価指標を決めて,評価を行う。 もちろん,うまくいっていないと分かれば是正処置をとります。
 この説明でお分かりのように,上記@〜Fの実施事項は,品質の目標を決めて標準に従って実行し,悪ければ改善すると言う,標準化と改善に他ならないのであります。 そのやり方を組織的に決めたのがQMSということになります。
 マネジメントシステムは,一人で全ての業務を行う場合には不要です。 業務がどこまで進行し,次に何をやらなければならないかと言ったことは、自分一人で分かっておれば良いことで,その記録をどのようにするとか,どのように伝達するとかは,自分ひとりで分かっておればよいことです。 ところが組織で仕事を行うとなると,複数の人である目的,機能を達成しようとすると,たちまち,コミュニケーションが発生してきます。 コミュニケーションをうまく図るためにいろいろと取決めをする必要が出てきます。 投薬業務であれば,医師から処方箋が発行され,それが薬局に送られ,薬局から薬が病棟に運ばれ,準備担当の看護師が準備し,実務担当の看護師に申し送られて施行されると言った複雑な経路をたどっていきます。 それぞれの間の情報伝達の方法,各担当の業務方法が品質を達成するための確実な方法として定められていなければなりません。 そのような仕組み,業務のやり方を定めたものがQMSであります。

    ≫医療の質マネジメントシステム(2)へ続く


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