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[品質保証におけるISO9001の役割]

1.基本概念のまとめ

これまで述べてきた基本事項を整理すると次のようになります。
@我々の目的は,医療の品質向上であります。

A医療における製品は,顧客,すなわち患者及びその代理人(家族,弁護士等)に提供される医療サービス
 の全体である。 その品質が向上すると言うのは,顧客の要望と期待とを満たす程度が上昇することで
 す。

B品質を向上させるためには,現在の業務手順,すなわちプロセスを改善し(プロセス指向),いろいろな
 問題に手を出すのではなく,重要な問題に絞って改善を進めるのが効果的である(重点指向)。 また,
 問題解決を進めるに当たっては,事実を調べて科学的に分析するのが良い(事実に基づく管理)。

C改善の進め方は,業務手順を標準化し,その標準に対してP-D-C-Aを回せばよい。 これは,標準を遵守
 すると言うことが前提となります。

D標準を定めたり,改善を進めたりするのは,個人個人が勝手に行ってはいけません。 組織的にうまく
 進めるための仕組みが必要です。それがQMSです。

 これが組織的に,品質マネジメントを進めるために必要な基本的概念です。 @〜Dに関連する重要な要素が、ISO9001に基づいてQMSを構築することによって,実現されれば良いと思います。
 以下の項では,それらの要素が,どのような形で ISO9001に取り込まれていくかを説明します。

2.品質向上
 ISO 9001は,どのようなことを目指した規格なのか,この規格の適用範囲を示したISO 9001の“1.適用範囲”には,次のように記載されています。
 ISO 9001は,2000年版に改訂される以前は ,a) が主要な目的であった。 a) は「,要求事項を満たすために組織活動をきちんとやっています」と言うことを実証すると言う品質保証活動について述べております。 品質保証活動とは,決められた通りに行ったと言う証拠を残す活動です。
決められたことを守ると言うことがきちんと行われていない場合は,それを確実に行うだけでも,品質の向上が期待できる。 更に,2000年版では b) が加わった。 “継続的改善を通じて顧客満足の向上を目指す”ことに関する要求事項が加わったわけで,決められたことを守るだけではなく,積極的に改善を進めるためにも活用することができます。
  ISO 9001
1.適用範囲
  一般
 この規格は、次の二つの事項に該当する組織に対して、品質マネジメントシステムに関する要求事項を規定するものである。
a) 顧客要求事項及び適用される規制要求事項を満たした製品を一貫して提供する能力を持つ
  ことを実証必要がある場合。
b) 品質マネジメントシステムの継続的改善のプロセスを含むシステムの効果的な適用、並びに
  顧客要求事項及び適用される規制要求事項への適合の保証を通して、顧客満足の向上を
  目指す場合。
 このように、ISO 9001は品質向上を一義的な目的とした規格であり,我々の目指しているものに合致しています。 しかし,何をすべきか要求事項として書かれているものの,それをどのような方法で実現していくかは,各組織に任されています。 つまり,規格の意図を生かすも殺すも組織の取り組み方にかかっていると言うことを,認識しておかねばなりません。

3.顧客指向の重視
 ISO 9001 の2000年版では,顧客満足に関わる要求事項が追加されています。 これは,前述の1項のAにおける“品質向上とは顧客の要望と期待とを満たす程度が上がること”の実現に直接結びつきます。
 顧客満足の程度を把握することに関する直接の ISO 9001の要求事項は“8.2.1 顧客満足”であり“品質マネジメントシステムの成果を含む実施状況の測定の一つとして,顧客要求事項を満足しているかどうかに関して顧客がどのように受け止めているかについての情報を監視すること,この情報の入手及び使用の方法を決めること”が要求されております。 これ以外にも,2000年版では顧客満足に関する要求事項がいくつかあり,顧客満足が強く意識されている。 例えば,“5.2 顧客重視:顧客満足の向上を目指して,トップマネジメントは,顧客要求事項が決定され,満たされていることを確実にすること”“6.1 資源の提供:組織は,次の事項に必要な資源を明確にし,提供すること。 a) ・・・(略) b) 顧客満足を,顧客要求事項を満たすことによって向上する”、“8.4 データの分析:・・・データの分析によって,次の事項に関連する情報を提供すること。 a) 顧客満足”などです。
 顧客満足を目指すことは,医療機関において品質向上運動を進めて行く上で,大きな役割を果します。 TQMやISO 9001などを用いた組織改革運動の目的は利益の追求,社会的貢献,組織体質の改革等様々なものがあります。 いずれにせよ,その目的が組織の人々に共有化され,真に目指すものだと認識されることで改革運動は促進されます。 病院においても,その目的は様々なものが設定できます。 例えば,利益を追求することも考えられます。 しかし,利益の追求は,病院の目的ではないと言う立場の人も大勢います。 医療の最終的な目的は,患者及びその代理人という顧客の満足を得ることであるとした場合には,おそらく異を唱える人はいないでしょう。 顧客重視の姿勢こそが、病院改革への求心力となるものと思われます。 顧客志向が強調されたISO 9001の2000年版は,品質向上運動の推進力となる点で病院に適しています。

4.プロセス指向
 1項のBの中で,特に重要なのはプロセス指向です。 これが浸透しない限り改善は進みません。 ISO 9001には,品質マネジメントの8原則一つであるプロセスアプローチが取り入れられています。 プロセスアプローチとは,“関連する資源及び活動がプロセスとして管理運営されることによって,所望の結果画より効果的に得られる”と言うものである。 具体的には,プロセスのインプット及びアウトプットを明確にして,アウトプットの品質を高めるために良いプロセスを設計し,運用することです。 これは,プロセス指向にほかならない。 具体的な要求事項は,ISO 9001 の“4.1一般要求事項”に規定されております。
 ISO 9001に取り組むことによってこの考え方が導入され,また構築されたシステムが改善のためのベースとなることによって改善が進むことも期待できます。

5.標準化
1項のCにあるように,標準化は改善の基本です。
これに関わるISO9001の効用は,基本動作の徹底と,文書化です。

(1) 基本動作の徹底
ISO 9001で言う品質保証は、
● 目標及び目標達成の方法を決める。
● 定めた計画どおり実施する。
● 実施された計画を確認する。
● 計画との差異があったら適切な処置を取る。
● 以上を確実に実施していることを実証する。
ことです。 中でも,手順書の確立が強く要求されている。 これには,実施の段階に問題があることが多く,確実に実施することが品質保証において重要であると言う考え方が根底にあります。
 TQMにおいては,むしろ改善に重点がおかれ,ともすると確実な実施は無視されがちです。 病院において,今求められているのは,決められたことの確実な実施です。 また,標準に基づく改善と言うのは,今ある標準を守ることから始まります。

(2)文書化
 ISO 9001では,手順書の確立を含め,様々な文書化が要求されます。 文書化は,現在行っていることの可視化です。 1項で述べた標準化の効用がもたらされる。 病院においては,一般企業に比べて文書管理が極めて遅れています。 文書体系の整備は,個人任せの管理から組織のマネジメントへ脱却するための有効な手段です。
 文書は,情報伝達,コミュニケーションのための主要なツールです。 文書の種類と詳しさは,QMSにおいてどのようなコミュニケーションが必要かで決まります。 2000年版では文書化に関する要求事項は,1994年版に比べて減少しておりますが,何を文書化するかは,組織の判断に委ねられています。 真に必要と考えられる最小限のものを文書化するようにします。
 手順書などと同様にISO 9001で強く要求されているのが,実施した証拠としての文書,すなわち,記録です。 医療での代表的なものは,診療録(カルテ、以下“診療録”という)です。 (診療録は,記録以外の機能も持つ)、QMSを構築する際には,この記録についても書式や活用方法を定める必要があります。
 処方箋の書き方があいまいである。 申し送り事項が伝達されないなど,情報伝達手段としての文書不備があるために起こっている事故も少なくありません。 これら文書類を整備するのは決して楽な仕事ではありませんが,ISO 9001に基づくQMSを構築することで医療機関内の文書体系を整備することは,品質向上に非常に有効であります。

6.組織的活動
 1項のDに示したように,医療機関で行う品質向上活動は,個人の活動ではなく,組織的な活動として行わなければなりません。 そのために必要な要素はQMSを構築することと,トップマネジメントがリーダーシップを発揮すること,及び組織の人々を系統的に教育することです。

(1) QMSの構築
 ISO 9001の要求事項を満たすためにどのような手順を確立すればよいか,又は,すでにある業務手順の内,どれがどの要求事項に当てはまるか,それらの内で手順を改善しなければならないのはどれか,と言ったことを検討しながら様々な手順を作成することによって、QMSを構築して行きます。 どのような規定,手順書が作成されているかを品質マニュアル(組織のQMSを規定する文書)に整理すれば,文書上のQMSは完成したことになります。 あとは,この品質マニュアルと,その下位文書である規定,手順書に従って業務を遂行する,すなわち,QMSを実際に運用していくことが必要なのであります。
 システム全体を記述する文書として,品質マニュアルは非常に重要です。 標準化の重要性については,5項で説明しましたが,個別の部門でバラバラに標準書が存在するだけでは,いけません。 品質保証のたまには全体としてどのような文書でシステムが構成されているのかが明確になり,それらの整合性が確認されなければなりません。 品質保証には,医療機関の全ての部門が関わるので,当然ある部門が登場しないような品質マニュアルは奇妙であり,手順書が存在しない部門があると言うことは起こり得ないのであります。 また,これらの部門間のつながり,プロセス間の連携が明確になるように記述しなければなりません。 例えば,注射に施行は、医師の処方,薬剤部への伝達,病棟への薬剤の搬送,看護師の準備,実施などの過程を経て行われる。 これらの部門の関係がわかるように,品質マニュアルに記述すべきです。 医師の処方手順,薬剤部の薬剤準備手順,看護師の注射実施手順が個別にあるだけでは不十分で,これらの手順が整合性を持つことで,患者に対する品質保証が確保できるのです。
 先に説明したように,組織的な活動を行うためには,部門間,要員間のコミュニケーションを図るための何らかのルールが必要です。 それがQMSです。 最初に出来上がったQMSは完全なものではないかもしれませんが,それでもかまいません。 それをベースにPDCAを回すことによって,より良いQMSが出来上がってきます。 QMSの構築が、組織的改善の始まりです。

(2) トップマネジメントの役割
組織の改革運動は、トップマネジメントがその必要性を感じ、リーダーシップを発揮しないと進みません。 これは医療機関に限らず、どの組織にも必要なことです。 ISO 9001にはトップマネジメントの責任及び役割が明示されており、改革のための大きな推進力となることが期待できます。
 QMSを用いて品質の向上を図ると言う活動は、行わなくてもすごしていけるものです。 業務には、本来の業務とそれを改善するための業務とがあります。 医療では、診察、看護、検査、医事会計、投薬などが本来の業務です。 これらの業務は放っておいても行われる。 つまり、もし、誰かが業務を怠ったとすれば、一連の業務は滞ってしまいます。 そしてその業務が行われなかったことはすぐに気づかれ、誰かが注意し、リカバリーが行われます。 ところが、本来業務を改善するための業務は、やらなくてもあえて文句を言う人がいなければ、とりあえずは過ごしていくことができるものと思われます。 最終的には、改善されない本来業務が継続されることで、本来業務が破綻することになります。 また、最悪の場合には、顧客すなわち患者が誰もこなくなり、病院としての意義がなくなることになりますが、普段の忙しい最中では、そのことに考えが及ぶ人はそうざらにはいないものです。 従って、業務を改善するための業務を推進するためには、絶えずそのことを念頭に置き、それが行われるように拍車をかける人が必要です。 その人はトップマネジメント以外にはおりません。 その組織がそのような活動を必要としており、やらなければならないと言うメッセージを組織の全員に送ることができ、また、その活動に必要な経営資源を準備して組織体制を整えることができるのは、トップマネジメントです。
 QMSの構築及び推進に当たって、トップマネジメントは重要な役割を担っておりISO 9001には、その役割が経営者の責任として強調されております。 何をしなければならないかも根威嚇にされております。 要求事項の詳細は、規格に盛り込まれていますが、トップマネジメントは絶えずその活動の必要性を説き続けることが大切であります。

(3) 教育:人的資源の品質
 たとえ立派なQMSができたとしても、それを組織の人々が知り、実践しなければ無用の長物です。 これまで説明してきた基本理念やQMSについて組織の人々によく知ってもらう必要があり、それには教育が不可欠です。 医療技術も同じです。 進んだ技術、優れた技術があっても、それを知り、習得しなければ良い医療は提供できません。 医療技術の教育も必要です。
 教育も、本来業務を改善するための業務と同様に、やらなくても過ごしていけるものです。 教育こそ、業務の仕組みの中に組み込まれていないとおろそかになってしまうものであります。 ISO 9001では、“6.資源の運用管理”の中の“6.2 人的資源”で規定されています。
 病院でも教育は行われていますが、体系的な教育システムを持っているところは少ない。 また、投薬に関する事故で、当事者が薬剤に関する十分な知識を持っていれば、未然に防げたものもかなりあります。 この要求事項を利用して、体系的な教育システムを構築することをお勧めします。


[リスクマネジメント活動との関係]

 現在では、各病院でリスクマネジメントと称する医療安全のための活動が行われるようになってきました。 また、選任のリスクマネージャーを任命し、業務を改善するための業務を専業化する動きも出てきております。
 事故防止は、医療の品質の一要素です。 事故がないことは医療の品質の向上ですが、最低限防がなければならない不適合であり、品質向上の対象はほかにもあります。 しかし、まず防ぐべきは不適合ですから、事故防止は品質向上活動の最初の段階で取り組むべき課題であります。
 事故防止は、医療の品質の一要素ですから、当然リスクマネジメント活動はQMSの一要素です。 むしろ、QMSの運用と分離された活動になってはならず、QMSを構築する際にどのようにしてリスクマネジメントを組み込むかを考慮すべきです。
例えば、
● 品質方針及び品質目標に事故に関するものを設定する。
● プロセスを監視するための指標として事故件数を設定する。
● 事故報告書の書式、運用手順などを定める。
● マネジメントレビューのインプットに事故情報を含める。
など、いろいろな形でQMSに取り込むことが可能である。 このようにしてISO 9001に関する活動、リスクマネジメント活動のように、分離された活動にならないように工夫することが大切です。


[QMSによる品質保証]

 QMSまたはISO 9001は改善を行うためのシステムではあるが、それだけに限定するものではありません。 良いシステム、完璧なシステムであれば改善など必要ないわけで、本当は完璧なシステムを運用することによって品質を保証すると言うことが第一義の目的なのであります。 ISO 9001の適用範囲の a) にあたる部分です。 完璧なシステムと言うのはなかなかできないので、出来損ないから始めて改善を行っているのが現状です。
 システムで保証すると言うのは、個人個人の能力に頼るのではなく、決められた仕事のやり方に従って業務を実施していけば、品質の良い製品やサービスが実現できると言うことです。 もちろん医師や看護師によって技量の差はあると思われますが、その技量の差を、個人の努力で埋めていくことも必要です。 しかし、実際には、経験年数や知識量の異なる人々が混在する状況で安全な医療を提供していかなければなりません。 たまたま技量の低い人が担当だったので、良くない治療結果になってしまったと言うのは、患者の立場からすればたまったものではない。 どの医師、どの看護師であっても確かな医療を提供するためには、システムで保証する必要があります。
 マクドナルドや東京ディズニーランドは、大半がパートやアルバイトの従業員で運営されている。 人の入れ替わりも多いであろうし、様々な人がやってくる。 それでも顧客に対してサービスの品質は保証しなければならない。 必然的にマニュアル類を整備し、どの従業員もそれに従ってできるように体系的に教育しなければならない。 いずれの組織も、しっかりした業務システムと教育システムを有しております。
 中には接客に優れたパートの人がいて、マニュアル以上のすばらしい応対をして、顧客に大きな感動を与えることがあるかもしれません。 もちろん、そのようなことがあってもかまいませんが、それ以外の普通のパートの人が応対したときに顧客がある一定の満足感を得られること、また少なくとも不満にはならないことが組織としては重要です。 つまり、最低限の品質保証をやらなければならないのです。 大きなマイナスの問題、マクドナルドや東京ディズニーランドであれば、二度と行きたくないという評判を作ってしまうこと、医療機関であれば重大な医療事故を起こしてしまうことは、その組織にとって致命的になり例えば大きなプラスがあっても挽回できないことが多いのであります。
 システムで保証すると言うのは、
● 手順が明確に定まっている。
● 手順どおりに仕事を行う。
● 手順どおりに実施することが、目的を達成するための効果的で効率的な方法であることを保証する。
 と言うことであります。
確かな手順を作り上げ、そのとおりにやることによってよりよい製品、サービスが提供されるのであります。 これがQMSで狙っていることです。 そして、できるだけ良いシステムにするために、絶え間ない改善が行われるのであります。

参考文献:日本規格協会発行「医療の質マネジメントシステム」

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