JR福知山線での脱線事故をマネジメントシステム規格で検証

事故にマネジメントシステム規格を適用して、問題点を取り上げた。

[事故の内容]
 2005年4月25日午前9時20分ごろ、JR福知山線塚口―尼崎駅間のR300のカーブで、宝塚発同志社前行き快速電車(7両)の前4両が脱線、線路からはみ出し、1,2両目はマンションに激突、大破し、死傷者がでた(死者107人、負傷者460人)。
 この電車は、直前の伊丹駅で40Mのオーバーランがあり、その処置のため1分30秒の遅れがでた。尼崎駅では東海道線との接続時間との関係があり、遅れをとりもどすためカーブでの規定(70km/h)以上の速度(108km/h)を出していた。
 この運転士は、以前にもオーバーランをさせたこともある。手順として数十分の遅れのものはあるが、数分の遅れについては、マニュアルがないが、研修で指導している。
  また、事故列車に乗っていた運転士の上司がそのまま出社するように指示したり、当日あるいはその後、他の部署でボーリング大会、ゴルフ、宴会等を実施していたという事実が判明した

[検証]
T.品質マネジメントシステム(ISO9001)として検証する。
1.直接の引き金になったのは速度を出し過ぎたこと
○ 伊丹駅でオーバーランをしたことと、それを取り戻すために制限速度を守らなかったのは運転士の運転技量(力量)の不足: 「6.2.2 力量、教育・訓練及び認識  a)製品要求事項への適合に影響がある仕事に従事する要員に必要な力量を明確にする。  b)必要な力量に到達することができるように教育・訓練する。  c)教育・訓練の有効性を評価する。」で不適合。
○ 設備上、速度自動調整機能がなく、速度が出すぎたときの警報設備がない: 「6.3 インフラストラクチャー 必要なインフラストラクチャーを明確にし、提供し、維持する。」に不適合。

2.要員の力量不足、教育システムの不備
○ 運転士の運転技量(力量)不足: (上述)
○ 運転士は3度の処分歴がありその都度研修を受けているが効果がない: 「6.2.2 力量、教育・訓練及び認識  b)必要な力量に到達することができるように教育・訓練し、又は他の処置をとる。  c)教育・訓練の有効性を評価する。」に不適合。  なお、 b)「その他の処置」には、教育・訓練の効果がでないなら、配置転換をすることも含まれている。
○ 不備がある教育・訓練システムを作り上げ、実施する教育担当者の力量不足: 「6.2.2 力量、教育・訓練及び認識  a)製品要求事項への適合に影響がある仕事に従事する要員に必要な力量を明確にする。  b)必要な力量に到達することができるように教育・訓練し、又は他の処置をとる。  c)教育・訓練の有効性を評価する。」に不適合。
○ 乗り合わせた運転手に救助させずに出社指示をしたことや、節度ある行動とはいえないこと(ボーリング、ゴルフ、宴会等)を実施の許可をしていたのは、管理者としての力量不足: 「6.2.2 力量、教育・訓練及び認識  a)製品要求事項への適合に影響がある仕事に従事する要員に必要な力量を明確にする。  b)必要な力量に到達することができるように教育・訓練し、又は他の処置をとる。  c)教育・訓練の有効性を評価する。」 及び 「5.5.1 トップマネジメントは、責任及び権限が定められ、組織全体に周知させることを確実にする。」に不適合。

3.顧客要求事項を満足していない
 鉄道に対する顧客の要求事項は「安全に時間通りに輸送する」ということ。 「安全に」は、どこにも文書で明示されていないが、人身事故を起こさないのは当然のことであろう。
ISO9000 3.1.2 で、「要求事項とは、 明示されている、通常、暗黙のうちに了解されている若しくは義務として要求されるニーズ又は期待」と定義されており、「人身事故を起こさない」は、明示がなくても鉄道事業者としては「暗黙のうちの了解又は義務としての要求」になるのは当然のこと。
○ 顧客要求事項を満足させていない: 次の条文を適用して不適合になる。
・ 「7.2.1 製品に関連する顧客要求事項の明確化 次の事項を明確にする。  a)顧客が規定した
  要求事項。  b)顧客が明示していないが、指定された用途又は意図された用途が既知である
  場合、それらの用途に応じた要求事項。  d)組織が必要と判断する追加要求事項のすべて。」
・ 運転計画を立てるのが設計・開発になると考えると「7.3.2 設計・開発へのインプット 製品要求
  事項に関連するインプットを明確にする」、「7.3.4 設計・開発のレビュー a)設計・開発の結果が、
  要求事項を満たせるかどうかを評価する。」

4.業務管理上の問題
○ サービスが管理された状況にない: 「7.5.1 製造及びサービス提供の管理 サービス提供を計画し、管理された状態で実行すること。 該当項目として、  c)適切な設備を使用している。  d)監視及び測定が実施されている。」に不適合。
○ 遅れを取り戻す手順(数分遅れ時の「回復運転マニュアル」)がない: "数分の遅れ"を不適合製品(サービス)にと考えられるので、「8.3 不適合製品の管理 不適合製品の処理に関する管理及びそれに関連する責任及び権限を規定するために、"文書化された手順"を確立する。」に不適合。
○ 運転業務を「特殊工程」にも当てはまると考えられる: 「7.5.2 製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認 b)設備の承認及び要員の適格性確認」に不適合。
○ 一度運転上のミスをした運転士に対して、あるいは過去に発生した同種の事故を十分に考慮していない: 是正処置及び予防処置の「原因の特定」「原因を除去する処置」が的確に実施されているのか不明であるが、少なくともこの状況からは「8.5.2 是正処置 f )とった是正処置の有効性のレビュー」、「8.5.3 予防処置 e )とった予防処置の有効性のレビュー」の実施が不十分で不適合。
○ 時間短縮をはかるダイヤを組んだ(設計・開発)時、事故発生の可能性の検討(レビュー)をしていない: 「7.3.4 設計・開発のレビュー 設計・開発の適切な段階で、計画されたとおりに体系的にレビューする。  a)設計・開発の結果が、要求事項を満たせるかどうかを評価する。  b)問題を明確にし、必要な処置を提案する。」に不適合。
○ その結果の妥当性評価をしていない: 「7.3.6 設計開発の妥当性確認 結果として得られた製品が、指定された用途又は意図された用途に応じた要求事項を満たし得ることを確実にするため、設計・開発の妥当性確認を実施する。」に不適合。
○ 事故後、総合指令所から事故の一斉放送を行ったが、その後死傷者に関する放送を行っていない(重要な情報が社内に流れていない): 「5.5.3 内部コミュニケーション 品質マネジメントシステムの有効性に関しての情報交換が行われることを確実にする。」に不適合。
5.トップマネジメントの問題
 次の要求事項を満たしていない。
○ トップ及び上級管理者が安全面の認識をしていない: 「5.1 経営者のコミットメント コミットメントの証拠として、  a)法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして、顧客要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する。  e)資源が使用できることを確実にする。」及び「5.2 顧客重視 トップマネジメントは、顧客要求事項が決定され、満たされていることを確実にする。」に不適合。
この項目に該当する事象:  (1) 運転部門の責任者が、ATSを設置する前に運転再開を表明したが国土交通大臣からダメをだされた。 (2) 事故電車に乗っていた運転士2人は職場の上位者に指示に従い負傷者を救出せずに職場へ向かい、計画通りの乗務をした。 (3) 他の部署で、事故の3時間後に親睦のボーリング大会をひらき、さらに二次会までやっていた。 (4) 他の部署で、社長から、節度ある行動をとるように通達が出た後でも、ゴルフ、宴会等をおこなっていた。 ―― これらは、安全に対する意識が徹底されていないという事実とできる。
○ 安全面の投資が後手になっている。 力量ある人員を配置していない: 「6.1 資源の提供 必要な資源を明確にし、提供する。」に不適合。

◎根本的な原因を特定し、その原因を除去する処置をしないで「速度制限を的確に行うための是正処置」であれば、本当の再発防止にならないと考える。
それには、「5.1 経営者のコミットメント」、或いは「5.2 顧客重視」を適用し、経営者に対する不適合(メジャー)にも及ぶなら、経営体質の改善を要求する必要があるといえる。


U.運転士等の乗務員に対する労働安全衛生の問題として考えると、労働安全衛生マネジメントシステム(OHSAS18001)も関係させることができる。
関係する条項は;
○ 「4.3.1 危険源の特定、リスクアセスメント及び管理策の決定 危険源の継続的特定、リスクアセスメント及び必要な管理手段実施の手順を確立し、維持する。」
○ 「4.4.1 資源、役割、実行責任、説明責任及び権限任 労働安全衛生リスクに影響を及ぼす活動を管理し、実施しかつ検証する要員の役割、責任及び権限を定める。 要求事項が適切に実施され、かつ遂行されることを確実にする。」
○ 「4.4.2 力量、教育訓練及び自覚 労働安全衛生に悪影響を与えるおそれのある作業を行う要員には、教育・訓練のニーズを明確にし、教育訓練の有効性を評価する。」
○ 「4.4.3 コミュニケーション、参加及び協議 関係する労働安全衛生情報を労働者(従業員)及び他の利害関係者に確実に伝達し、かつそれらから聴取する手順をもつ。 労働者(従業員)の参加労働安全衛生委員会等の取決めは、文書化され、かつ利害関係者に周知する。 労働者(従業員)は;リスク管理の方針及び手順の策定や見直しに参画する。」
○ 「4.4.6 運用管理 管理手段を適用する必要があるところでは、特定されたリスクに関連する運用及び活動を特定する。 活動が、特定の条件の下で確実に実施されるように計画する。  d)労働安全衛生リスクを、その発生源で除去又は低減させるため、人的能力への適応を配慮しつつ、職場からプロセス、据付、機械装置、作業標準及び勤務体制までの設計に関する手順を確立し、維持する。」
○ 「4.4.7 緊急事態への準備及び対応 潜在的な事故誘因及び緊急事態及びこれらに対する対応を特定するための、及びこれに付随して起こるかもしれない疾病や障害を防止し軽減するための計画及び手順を確立する。」
○ 「4.5.1 パフォーマンスの測定及び監視 労働安全衛生の実績を定期的にモニタリング及び測定する手順を確立し、維持する。 これら手順には次の事項を規定する;― 組織(職場)の必要に応じた定性的及び定量的指標。  ― 事故、疾病、事故誘因(ニアミスを含む)、及び労働安全衛生の欠陥実績の経時的証拠までをモニターする事後的実績指標。」
○ 「4.52 順守評価 法的及びその他の要求事項の定期的な順守評価をする。」
○ 「4.5.3 発生事象の調査、不適合、是正処置及び予防処置 責任と権限を定める手順を確立し、維持する。 手順は、提案されたすべての是正及び予防処置を、実施に先立つリスクアセスメントのプロセスを通して見直す。」


V.近隣住民(利害関係者)に環境上の影響を及ぼしたと考えると、環境マネジメントシステム(ISO 14001)も関係させることができる。 関係する条項は;
○ 「4.3.1 環境側面  a)組織が管理できる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面を特定する。」
○ 「4.3.2 法的及びその他の要求事項  a)組織の環境側面に関係して適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を特定し、参照する。  b)これらの要求事項を組織の環境側面にどのように適用するかを決定する。」(「要求事項」はT.3)
○ 「4.4.1 資源、役割、責任及び権限 環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、改善するために不可欠な資源を確実に利用できるようにする。 資源には、人的資源及び専門的な技能、組織のインフラストラクチャー、技術並びに資金を含む。」
○ 「4.4.2 力量、教育訓練及び自覚 組織によって特定された著しい環境影響の原因となる可能性をもつ作業を組織で実施する又は組織のために実施するすべての人が、適切な教育、訓練又は経験に基づく力量をもつことを確実にする。」 (「ニーズを明確にする」はできているが、教育訓練の結果の評価が不十分。)
○ 「4.4.3 コミュニケーション 環境側面及び環境マネジメントシステムに関し、次の事項にかかわる手順を確立し、実行し、維持する。  a)組織の種々の階層及び部門間での内部コミュニケーション。」
○ 「4.4.6 運用管理 特定された著しい環境側面に伴う運用を明確にし、計画する。  c)組織が用いる物品及びサービスの特定された著しい環境側面に関する手順を確立し、実施し、維持する。」
○ 「4.4.7 緊急事態への準備及び対応 環境に影響を与える可能性のある潜在的な緊急事態及び事故を特定するための、またそれらにどのようにして対応するかの手順を確立し、実施し、維持する。」
○ 「4.5.2 順守評価 法的要求事項(4.5.2.1)及び組織が同意するその他の要求事項(4.5.2.2)の順守を評価する。」
○ 「4.5.3 不適合並びに是正処置及び予防処置 顕在及び潜在の不適合に対応するための並びに是正処置及び予防処置をとるための手順を確立し、実施し、維持する。」


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